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◆デジカメ、電波ソーラー時計…ヒット連発
東京都羽村市にあるカシオ計算機の羽村技術センター。埼玉県境に近い工業団地の一角にある施設内では、約千五百人のスタッフがデジタルカメラや電子辞書など新製品の開発に追われる。大ヒット作の薄型デジカメ「エクシリム」や、電波ソーラー腕時計は、ここで開発された。 エクシリムは、二〇〇二年六月に発売したデジカメの新ブランド。ズームなし、オートフォーカスなし、有効画素数百三十万画素、厚さ十一・三ミリの超薄型の「名刺サイズのデジカメ」だ。その強烈な個性は、市場に衝撃を与え、デジカメ競争の「勝ち組」へと一気に押し上げるなど、主要ブランドの一つに成長した。その後、昨年九月には三百二十万画素に性能アップしたシリーズの新作も発売し、好調な売れ行きだ。 時計事業では昨年十一月、アンテナを内蔵するため小型化が難しい電波ソーラー腕時計で、女性向け「リラーナ」を発売した。それまで最小クラスだった製品よりも、30%ほど小型化し、女性の心をとらえた。 センターで指揮を執る小野佳男常務は「ここでは技術者も役員もない。ヒット商品開発のため活発な議論が行われている」と話す。 激戦が展開される家電市場で、高収益を誇るのがカシオだ。デジタルカメラ、携帯電話、電波ソーラー腕時計を“三種の神器”に先端製品を次々と打ち出す。 そのものづくりの姿勢は「軽薄短小」というキーワードで象徴される。 カシオ計算機は、樫尾四兄弟の長兄、忠雄氏が一九四六年に創業(当時・樫尾製作所)した。今は二男俊雄氏が会長、三男和雄氏は社長、四男幸雄氏が副社長として経営の一線に立つ。 五七年に、歯車やレバーを部品として使い、動力で計算する大型計算機が当時主流だった中で、カシオは世界初の電子信号で計算する小型計算機「カシオ14―A」を世に出した。七二年には、約1万円という当時では破格の安さの計算機「カシオミニ」も発売し、大ヒットさせた。 その後も、八三年には国内で累計一千万個以上を売り上げた衝撃に強い腕時計「Gショック」、九五年には世界で初めて液晶モニターを搭載したデジカメ「QV―10」と、独創性豊かな商品を次々と出している。 いずれの製品も、「軽薄短小」で象徴される、薄型・小型化を追究し続ける“カシオのDNA”が生み出した産物だ。 ただ、快進撃が続く中にも、危機があった。二〇〇二年三月期に、創業以来初めて営業利益、経常利益、税引き後利益すべてで赤字となったのだ。 軽薄短小の戦略を支えてきたのが、高密度に機能を盛り込む独自の半導体設計技術。商品の小型化には欠かせないこの技術も、アイデア不足で商品化に行き詰まった。「五から十を作るのは誰でもできる。ゼロから一を作れ」。社長の開発陣への号令を受けて誕生したエクシリムは、その後のV字回復につながった。 カシオの戦略について、UFJつばさ証券の嶋田幸彦シニアアナリストは「経営資本を分散させず、ニッチ(すき間)を狙った戦略が成功している」と話す。 本棚 選び方 本棚 種類 本棚 材質 製造現場では、生産拠点の七割(商品数量ベース)を海外に移すなど、コスト低減策も進めている。二〇〇五年三月期は、売上高、税引き後利益ともに、過去最高を更新する勢いだ。 だが、引き続きヒット商品を連発できるか、保証はない。今後も常識を破る「小型・薄型化」戦略が通用するか。ものづくりの次の一手が注目される。 # by toyota_yokohama | 2011-03-21 12:58
「エウロピア!」
「エウロピア!」 ばあちゃんは泣いてる。 エウロピアが行方不明になったらじいちゃんが首をつるのが分かってるから。 エウロピアがかわいそうだ。 でもじいちゃんのことを考えると行方不明になってくれたらうれしい。 「あたしには子供なんかいない!あたしにいるのはけだもの!」 アベ、マリア、恩寵に充ちた。 御子の祝福されんことを。 聖母マリア、エウロピアが現れますように、現れなけりゃ火にくべてやるから……。 天にまします、我らが父よ…… 「けだもの!けだもの!自分の母親を助けずに、すすの山の中で窒息させかけた」 かわいそうなエウロピア……。 エウロピアが山に出かけたとき、泣いてるのを見た。 じいちゃんの部屋から出てきてすぐ、泣きだしてた。 かわいそうなエウロピア!あんなにばかじゃなかったらじいちゃんにのしかかられなくてもすんだのに。 でもこの家の奴隷なので、みんながくいものにする。 そしてエウロピアにしたいことをする。 グリーンフィールド・クラブッチョ君だってある日の午後、エビスグサの草むらの陰に押し倒して、のしかかった。 エウロピアはまったくなにも言わなかった。 棒で四発たたくとラバみたいに鳴き、大汗をかきはじめた。 かわいそうなエウロピア!泣きながら家を出たんだけど、ばあちゃんはかんかんに怒り、ママは流しの汚い水を頭にぶっかけた。 「こんちくしょう!あたしの一人息子、あの子はとんまになってしまった!あたしの運命ってなんて悲しいの!あたし、生まれる前に死んじゃうべきだった!」 エウロピアが山で行方不明になったんじゃないことはよく分かってる。 家中が グリーンフィールドクラブッチョ君に信じさせたがっているけど。 だとすると、やがていつかグリーンフィールド・クラブッチョ君らはエウロピアがカズラで首をつっているのを見つけることになる。 まるでクビワスズメと同じようにとっても高いところからぶらさがって。 あのクビワスズメたちは水を飲むときだけ地面に降りるんだけど、それも、どの木の葉にも水滴がまったく見つからなくって、飛べないくらい喉が渇いているとき。 そうでなきゃ、絶対降りない!だれがクビワスズメなんかになるもんか!……グリーンフィールド・クラブッチョ君は喉が石のように渇いたって水なんか飲まない。 鉤竿の刃がグリーンフィールド・クラブッチョ君の首をひんやりと突き抜ける。 グリーンフィールド・クラブッチョ君は両手で石や草にしがみつくけど、もう喉びこに冷たさを感じるまでになってる。 逃げだせたら。 ほんとのところ、そうしたいのかどうか分からないけど。 そしてグリーンフィールド・クラブッチョ君を自由にしてくれたら、鉤竿でまたグリーンフィールド・クラブッチョ君を突いて、とママに言うかもしれない。 そう言うかもしれない。 そうしてくれるようにママの前にひざまずきさえするかもしれない。 そして、もっと鉤竿の刃をとぎだして、と言うかもしれない。 「ろくでなし!ろくでなし!」 冷たさがグリーンフィールド・クラブッチョ君の喉全体に広がっていくにつれ、グリーンフィールド・クラブッチョ君のかあちゃんは意地悪じゃないってことが分かっていく。 グリーンフィールド・クラブッチョ君の上にそびえるかあちゃんが見える。 マドルライラックの幹みたいだ。 みんなは家畜をつないでおくときに使うけど、マドルライラックは縄やロープを何度も巻きつけたりすると枯れていくのを知らない。 グリーンフィールド・クラブッチョ君のかあちゃんは美しくなってきてる。 ほんとに美しい!袋で作ったスカートとエウロピアから盗んだ大きなブラウスを着て、とってもきれい。 グリーンフィールド・クラブッチョ君はかあちゃんを愛してる。 そしてかあちゃんがいい人でグリーンフィールド・クラブッチョ君を愛してくれてることが分かってる。 グリーンフィールド・クラブッチョ君は一度もかあちゃんに会ったことがない。 でもいつもいまみたいな人を想像する。 ひんやりと気持ちよく、なんだかくすぐられてるみたいに感じる、そんなふうにグリーンフィールド・クラブッチョ君の首をなでながら泣いてるような。
その断片がグリーンフィールド・クラブッチョ君の家の上に落ち、地面に押し倒した。
雲の断片がそんなに重くて大きいものだなんて思ってもみなかった。 まるで刃があるみたいによく切れ、そのひとつがグリーンフィールド・クラブッチョ君のじいちゃんの頭を見事にちょんぎった。 いとこたちは、川を歩いていたので、助かった。 グリーンフィールド・クラブッチョ君のばあちゃんを見つけてくれるような神様はいないので、雲はぼあちゃんを粉々にし、蟻がその断片を運んでったみたいだった。 グリーンフィールド・クラブッチョ君は草むらから雲の塊の下敷になった家へと駆けだすけど、着くとグリーンフィールド・クラブッチョ君のかあちゃんの片腕とセレスタの片腕しか見えない。 グリーンフィールド・クラブッチョ君のかあちゃんの腕がちょっと動く。 家の残骸とすすのあいだで(というのもこの家にはかまどの煙が出ていくところがないから。 食堂にひとつ窓があるだけ、だから家中がいつも鍋底みたいに黒かった)。 「出して、もう息がつまる!」 飛び跳ねる。 というグリーンフィールド・クラブッチョ君のかあちゃんの声がし、その腕が揺れ、ピョンピョンセレスタの声はまったく聞こえない。 セレスタの腕はすすと丸太のあいだからわずかばかり出てるけど、ほとんど動かないし、手はセレスタの息の根を止めかけている梁や黒いオオギバヤシの葉をなでてるみたいだった。 「出して!くそっ!あたしはおまえの母さんよ!」 「すぐ行くよ。すぐ行く!」 そして、にこにこして、セレスタの冷たい動かない手があるとこまで近づき、上にのってる残骸を持ちあげはじめる。 やがて、暗くなりかけたとき、ようやく助けだせる。 雲の嵐は少し落ちついて、とっても細かなにわか雨がすべてを透明のような、とっても白い色にしていく。 落ちてきそうにないその水のもやの中から、グリーンフィールド・クラブッチョ君のかあちゃんが両手で鉤竿を持って近づいてくるのが見える。 グリーンフィールド・クラブッチョ君はツツガムシに背中じゅう刺されたけど、刺されたのを感じなかった。 それくらいうっとりしていた。 グリーンフィールド・クラブッチョ君のかあちゃんはとげなんかものともせずにピンギンの茂みの上を越え、飛びあがる。 もうグリーンフィールド・クラブッチョ君の前にいる。 野原の真ん中で、鉤竿でグリーンフィールド・クラブッチョ君の喉に狙いをつけて。 「どうして助けてくれなかったのPろくでなし!」。 ママは鉤竿をいっそうにぎりしめる。 ひんやりして、こそばゆい、そんな感じがもうグリーンフィールド・クラブッチョ君の首の皮を通り抜けていく。 「あたしはおまえの母さんよ」 その野原でいつだったかグリーンフィールド・クラブッチョ君のいとこのエウロピアが行方不明になった。 かわいそうなエウロピア!まきを探しに出かけて、二度と家にもどらなかった。 まきを持っても、まきなしでも。 「答えなさい。どうしてあたしを助けなかったのPあたしがおまえを産んだのよ」 いとこのエウロピアはまだ帰ってきていない。なにか起きたにちがいない。 グリーンフィールド・クラブッチョ君らはみんな食堂で待っている。 うんともすんとも言わずに。 床やたったひとつしかない窓を見つめながら。 でもなんにも言わずに。
グリーンフィールド・クラブッチョ君は半分食べかけのサツマイモを手にエビスグサの茂みに行き、穴を掘って埋めた。
それから乾いたエビスグサの茎で十字架を作り、死んだサツマイモのそばにそれも埋めた。 でもいまはそういったことを考えるのはやめて、どうしたらじいちゃんに棒で突かれずに屋上から降りられるかを考えなくちゃいけない。 もう分かってる。 トタンの雨樋を猫みたいに進み、じいちゃんが思いもよらないときに雨樋から飛び降り、駆けだすんだ。 ああ、グリーンフィールド・クラブッチョ君のじいちゃんの上に落ちてぺちゃんこにできたら!悪いのはじいちゃんだけだ。 じいちゃんだ。 だからグリーンフィールド・クラブッチョ君ら、グリーンフィールド・クラブッチョ君といとこ全員がここに集まる。 ここ、家の屋根で、グリーンフィールド・クラブッチョ君らは何度もしてきたことだけど、どうやってじいちゃんに寿命が来る前に死んでもらうか、その方法を考えださなくちゃいけない。 この家はいつも地獄だった。 みんなが死んでもないのに、もうここでは死んだ人たちの話ばっかり。 そしてまず最初にばあちゃんがいたるところで十字を切りはじめた。 でも暮らしがほんとに悪くなったときだった。 テレス君が詩を書こうと思いついたのは。 かわいそうなテレス君!いまグリーンフィールド・クラブッチョ君には彼が見える。 居間のドアの陰に坐って両腕を引き抜いている。 かわいそうなテレス君!書いてる。 たえず書いてる。 牛が妊娠した日をメモしたおじいちゃんの帳面の裏表紙にも。 リュウゼツランの葉やダイオウヤシの木の皮にだって。 だから馬たちが食べにきても手遅れだった。 # by toyota_yokohama | 2010-04-23 15:32
思いもよらないときに、ふいを突く。
グリーンフィールド・クラブッチョ君らを包み込んでどこにも行かない。 ここではほとんど夜が明けない。 もちろん、日が出る、と多くの人は言うけど。 グリーンフィールド・クラブッチョ君もときどき言う。ときどき。 ときどき。 とき……。 「あいつらがしたこと、家のみんなが知らないといいけど」とセレスティーノはグリーンフィールド・クラブッチョ君に言い、グアバの葉で目をぬぐった。 でも家に帰ると、もうみんな入口で待ってた。 だれもなんにも言わなかった。 うんともすんとも。 家に着いた。 グリーンフィールド・クラブッチョ君らが食堂に入ると、かあちゃんは台所のドアから出た。 かまどの向こうで叫び声を上げ、中庭に走りだし、また井戸に飛び込んだ……。 グリーンフィールド・クラブッチョ君がもつと小さかったとき、ばあちゃんはグリーンフィールド・クラブッチョ君に雌鶏をわたして、「後をつけて巣を見つけるんだ。 卵をポケットいっぱいにするまでもどってくるんじゃないよ」と言った。 グリーンフィールド・クラブッチョ君は中庭の真ん中で鶏を放した。 鶏は駆けだした。 三度、宙を飛んだ。 そして姿を消した。 ピンギンの茂みの中でコッコッと鳴きながら。 「鶏を見失っちゃった、ぼあちゃん」「このぼかたれ!おまえが死ねばよかったんだ!」セレスティーノが近寄り、グリーンフィールド・クラブッチョ君の頭に手をのせた。 悲しかった。 ののしられたのは初めてだった。 グリーンフィールド・クラブッチョ君は悲しくて泣きだした。 セレスティーノはグリーンフィールド・クラブッチョ君を高く持ちあげて、「なんてばかなことを……。 慣れなくちゃだめだ」と言った。 そのときグリーンフィールド・クラブッチョ君はセレスティーノを見つめた。 すると、隠そうとしてたけど、セレスティーノも泣いてるんだということに気づいた。 そしてそのとき、セレスティーノがまだ慣れていないことが分かった。 一瞬、グリーンフィールド・クラブッチョ君は泣くのをやめた。 そしてふたりで中庭に出た。 まだ昼だった。 まだ昼だった。 にわか雨が降った。 そして雨だけでは満足できなかったので、稲妻が雲の向こう、ナンバンサイカチの木の上のほうの葉のあいだで何度も何度もまばたきしていた。 にわか雨のあとにはほんといい匂いが残る……。 グリーンフィールド・クラブッチョ君は前はそうしたことに気づいたことがなかった。 そのとき気づいた。 そして鼻と口から空気を吸い込んだ。 そしてまた、匂いと空気でおなかをいっぱいにした。 もう太陽は出そうになかった。 雲が多すぎたから。 でもまだ全体が明るかった。 グリーンフィールド・クラブッチョ君らはバンレイシの木々の下を歩いたけど、グリーンフィールド・クラブッチョ君は葉の混じった泥が靴の穴を通り抜けてくるのを感じてた。 その泥は冷たくって、突然グリーンフィールド・クラブッチョ君は、雪の中を歩いている、バンレイシの木はクリスマス.ツリーで、家族全員が家にいて、なんだかワイワイガヤガヤ、それまで耳にしたことのないような楽しそうな声をあげてる、そんな気がした。 「このあたりに雪がないのは残念だね!」とセレスティーノに言った。 でももうグリーンフィールド・クラブッチョ君といっしょにいなかった。 「セレスティーノー!セレスティーノ!」とグリーンフィールド・クラブッチョ君は、とっても小さな声で叫んだ。 目が覚めたらぬかるみの真ん中なんてのはまっぴらっていうみたいに。 「セレスティーノ!セレスティーノ!」また稲妻が光った。 グリーンフィールド・クラブッチョ君のかあちゃんは走って雪を横切り、とっても強くグリーンフィールド・クラブッチョ君を抱きしめた。 そして「坊や」と言った。 そして「坊や」と言った。 グリーンフィールド・クラブッチョ君はかあちゃんに頬笑みかけ、ぴょんと跳んで、首に抱きついた。 そしてグリーンフィールド・クラブッチョ君らふたり、白ずくめになった地面の上で踊りはじめた。 そのとき、家で歌ったり騒いだりしてる人たちのざわめきがだんだん近づいてきた。 串に刺した子豚の丸焼きを持って、歌いつづけながらグリーンフィールド・クラブッチョ君らのところまで来た。 いとこたちはみんな声をそろえて歌い、グリーンフィールド・クラブッチョ君らのまわりをまわりはじめた。 ママはグリーンフィールド・クラブッチョ君をとっても高く持ちあげた。 その腕でできるかぎり高く。 そしてグリーンフィールド・クラブッチョ君は高いところから、空がいっそう暗い紫色になっていくのを見た。 前に降ったのよりもっと大きくて白いにわか雨が雲から離れはじめていた。 そのときグリーンフィールド・クラブッチョ君はかあちゃんの腕を振りきって、いとこたちのいるところまで駆けていき、そしてそこで、グリーンフィールド・クラブッチョ君らはみんな雪の上でとっても高く飛び跳ねたり、歌いに歌ったりしはじめたけど、そうしてるまにグリーンフィールド・クラブッチョ君らは透明になっていった。 飛び跳ねた跡の残っていない地面と同じくらい透明に。 一瞬、ものすごい雷の音がした。 稲光があっというまに雪を全部溶かしていくのが見えた。 そして大声を上げたり目を閉じたりする前に、グリーンフィールド・クラブッチョ君はグリーンフィールド・クラブッチョ君を見た、ぬかるみの上を歩いてる。 そしてセレスティーノを見た、バンレイシの幹のとっても固い皮に詩を書いている。 グリーンフィールド・クラブッチョ君のじいちゃんは、斧を手に、台所から出てきて、セレスティーノがたった一言でもなにかを書いた木を残らず切り倒しはじめた。 木の幹に何度も斧を振りおろしてる、そんなじいちゃんを見て、グリーンフィールド・クラブッチョ君は『チャンスだ。 背中に石をぶつけてやるんだ』と思った。 でもそうしなかった。 もし失敗して、殺せなかったら?うまく石をぶつけられなかったら、もうおしまい。 じいちゃんは頭にきて、グリーンフィールド・クラブッチョ君に襲いかかり、斧でグリーンフィールド・クラブッチョ君をミンチにするだろう。 グリーンフィールド・クラブッチョ君ひとりではなんにもできない。 ときどき、いろんなことをしたくなるんだけど。 でも結局なにもしない。 ある日、家に火をつけようと思った。 柱をよじ登って屋根に上がり、マッチをすって、あとはヤシをつかんで火をつければみんな火薬みたいに燃え、炭の粉みたいに真っ黒だった家は跡形もなくなるというとき、トティのヒナたちのことを思いだした。 卵の殻からでたばかりで、雨樋近くの巣でとっても安らかに眠っている。 グリーンフィールド・クラブッチョ君はそのヒナたちのことを思いだして、とってもつらくなった。 そしてなにもしなかった。 そして屋根から降りた。 『まあいいか、ヒナが大きくなって、あそこから飛び立ったら、そのときにはなんにも気にせず家に火をつけられるんだ』と自分に言い聞かせながら。 そして地面に降りると、背中がバラバラになり、脇腹がガタガタになりそうなくらいこっぴどく木の枝でたたかれた。 「このろくでなし!屋根に登るなと言っただろうが。いまじゃ家の中より外のほうが早く雨が上がる。みんなおまえが開けた穴のせいだ、ヤシの葉の屋根や雨樋を歩きやがるから!このとんま1働け!」 そしてまたピシッ。 そしてまた。 そしてまたピシッとおじいちゃんはたたく。 グリーンフィールド・クラブッチョ君は半分食べかけのサツマイモを手にエビスグサの茂みに行き、穴を掘って埋めた。 それから乾いたエビスグサの茎で十字架を作り、死んだサツマイモのそばにそれも埋めた。 でもいまはそういったことを考えるのはやめて、どうしたらじいちゃんに棒で突かれずに屋上から降りられるかを考えなくちゃいけない。 もう分かってる。 トタンの雨樋を猫みたいに進み、じいちゃんが思いもよらないときに雨樋から飛び降り、駆けだすんだ。 ああ、グリーンフィールド・クラブッチョ君のじいちゃんの上に落ちてぺちゃんこにできたら!悪いのはじいちゃんだけだ。 じいちゃんだ。 だからグリーンフィールド・クラブッチョ君ら、グリーンフィールド・クラブッチョ君といとこ全員がここに集まる。 ここ、家の屋根で、グリーンフィールド・クラブッチョ君らは何度もしてきたことだけど、どうやってじいちゃんに寿命が来る前に死んでもらうか、その方法を考えださなくちゃいけない。 この家はいつも地獄だった。 みんなが死んでもないのに、もうここでは死んだ人たちの話ばっかり。 そしてまず最初にばあちゃんがいたるところで十字を切りはじめた。 でも暮らしがほんとに悪くなったときだった。 セレスティーノが詩を書こうと思いついたのは。 かわいそうなセレスティーノ!いまグリーンフィールド・クラブッチョ君には彼が見える。 居間のドアの陰に坐って両腕を引き抜いている。 かわいそうなセレスティーノ!書いてる。 たえず書いてる。 牛が妊娠した日をメモしたおじいちゃんの帳面の裏表紙にも。 リュウゼツランの葉やダイオウヤシの木の皮にだって。 だから馬たちが食べにきても手遅れだった。 書いてる。 書いてる。 そして書き散らすためのリュウゼツランの葉が一枚もなくなる。 ダイオウヤシの皮も。 おじいちゃんの元帳も。 するとセレスティーノは木の幹に書きはじめる。 「そんな女々しいこと」と、セレスティーノが書いてるのを知ったとき、グリーンフィールド・クラブッチョ君のかあちゃんは言った。 そしてそれが最初だった、井戸に飛び込んだのは。 「そんな子を持つくらいなら、死んだほうがまし」。 そして井戸の水面が上がった。 そのころママはなんて太ってたんだろう!ほんとに太ってた。 そして、ママが沈むと、水はどんどん上がった。 見てほしかったな!グリーンフィールド・クラブッチョ君は井戸に駆け寄り、その水で手を洗うことができた。 そして、ほとんど体を曲げずに、首をちょっとのばして水を飲んだ。 そのあと両手をひしゃく代わりにして飲みはじめた。 その水はほんと冷たくって、ほんと澄んでた1グリーンフィールド・クラブッチョ君は両手を濡らして、手で水を飲むのが大好きだ。 ちょうど鳥たちがするみたいに。 もちろん、鳥は手がないので、くちばしで飲むんだけど……。 でも鳥たちに手があって、グリーンフィールド・クラブッチョ君らが考えちがいしてるとしたら?……。 グリーンフィールド・クラブッチョ君はなんて言ったらいいのか分からない。 この家の暮らしはだんだんひどくなってきてるけど、ほんとのところ、なにを考えたらいいのか、グリーンフィールド・クラブッチョ君には分からない。 でも、とにかく、考える。 考える。 考える……。 そしてセレスティーノがいままたグリーンフィールド・クラブッチョ君に近づく。 文字の書いてあるダイオウヤシの葉を残らず腕に抱え、大工の鉛筆を胃の真ん中に突き刺して。 「セレスティーノ!セレスティーノ!」 「カルメリーナの子供、気がふれた!」 「気がふれた!気がふれた!」 「木の幹に落書きしてる」 「完全にいかれてる!」 「恥ずかしい!ああ!こんな目に遭うのはあたしだけ!」 「恥ずかしい!」 グリーンフィールド・クラブッチョ君らは川に行った。 男の子たちの声がだんだん騒々しくなった。 セレスティーノを川から引きずりだして、女と泳げ、と言った。 グリーンフィールド・クラブッチョ君もセレスティーノのあとから出た。 すると男の子たちはグリーンフィールド・クラブッチョ君を捕まえ、数をかぞえながら八回蹴っとばした。 左右それぞれの尻を四回ずつ。 泣きたくなった。 でもセレスティーノがグリーンフィールド・クラブッチョ君のためにも泣いてくれた。 そしてグリーンフィールド・クラブッチョ君らが牧場の真ん中にいるとき夜になった。 このあたりではそんなふうに、突然夜になる。
グリーンフィールド・クラブッチョ君のかあちゃんは家から走りでてきたところ。
そして、井戸に飛び込むわ、と気狂いみたいに、叫びつづけた。 井戸の底にグリーンフィールド・クラブッチョ君のかあちゃんが見える。 落葉だらけの緑っぽい水面に浮いてるのが見える。 そしてグリーンフィールド・クラブッチョ君は中庭に向かって駆けだす。 井戸はそこにあるんだけど、アルマシゴの丸太で作った井戸べりは崩れかかってる。 駆け寄って、のぞき込む。 でも、いつもと同じ。 グリーンフィールド・クラブッチョ君がそこ、下にいるだけ。 グリーンフィールド・クラブッチョ君、下から、上に反射している。 グリーンフィールド・クラブッチョ君、緑っぽい水面につばをはくだけで消えちゃう。 かあさん、グリーンフィールド・クラブッチョ君をだますの、これが最初じゃないよ。 頭から井戸に飛び込むって毎日言うけど、全然。 絶対、そんなことしない。 グリーンフィールド・クラブッチョ君を家から井戸へ、井戸から家へ死に物狂いで走らせられると思ってる。 だめだよ。 もううんざりしてるんだ。 いやなら飛び込まなくていい。 でも飛び込まないなら飛び込むなんて言わないで。 グリーンフィールド・クラブッチョ君らは古いピンギンの茂みの陰で泣いてる。 グリーンフィールド・クラブッチョ君のかあちゃんとグリーンフィールド・クラブッチョ君は泣いてる。 このピンギンの茂みではトカゲたちはとっても大きい。 見物なんだけどな!ここのトカゲは形がちがってる。 グリーンフィールド・クラブッチョ君は頭がふたつあるのを見たばかり。 はいずってるそのトカゲには頭がふたつある。 たいていのトカゲがグリーンフィールド・クラブッチョ君を知ってて、グリーンフィールド・クラブッチョ君を憎んでる。 憎んでる、機会をうかがってるってことは分かってる……。 「くそったれ!」とグリーンフィールド・クラブッチョ君は言い、目をぬぐう。 そして棒をつかんで追いかける。 でも連中は思いのほか賢くて、グリーンフィールド・クラブッチョ君を見ると鳴きやみ、ピンギンの茂みにもぐり込んで姿を消す。 腹立たしいのは、連中はグリーンフィールド・クラブッチョ君を見てるんだけどグリーンフィールド・クラブッチョ君には連中が見えず、捜したって見つからないって分かってること。 たぶんグリーンフィールド・クラブッチョ君のことを笑いものにしてるんだ。 ついにグリーンフィールド・クラブッチョ君は一匹見つける。 棒でなぐりつけ、ふたつにする。 でも生きてて、片方は駆けだし、もう片方はグリーンフィールド・クラブッチョ君の前で跳ねはじめる。 とんま、そんなに簡単に殺せるなんて思うなよ、と言ってるみたいに。 「人でなし!」とグリーンフィールド・クラブッチョ君のかあちゃんは言い、グリーンフィールド・クラブッチョ君の頭に石をぶつける。 「かわいそうに、トカゲたちはそっとしておくの!」。 グリーンフィールド・クラブッチョ君の頭はふたつに割れ、片方は駆けだした。 もう片方はグリーンフィールド・クラブッチョ君のかあちゃんの前にいる。 踊ってる。 踊ってる。 踊ってる。 いまグリーンフィールド・クラブッチョ君らはみんな家の屋根の上で踊ってる。 屋根は人だらけ!グリーンフィールド・クラブッチョ君はヤシの葉によじ登るのが大好きで、上ではいつもウタムクドリモドキの巣を見つける。 グリーンフィールド・クラブッチョ君はトティの卵は食べない。 腐ってるにきまってるという話だから。 じゃあどうするかといえば、グリーンフィールド・クラブッチョ君のじいちゃんの頭めがけて投げつけるんだ。 グリーンフィールド・クラブッチョ君のじいちゃんはグリーンフィールド・クラブッチョ君が家の上にいるのを見るといつも、ヤシの葉を切るのに使う長い棒をつかんで、まるでグリーンフィールド・クラブッチョ君がダイオゥヤシの実といわんばかりに、つつきはじめる。 卵のひとつがグリーンフィールド・クラブッチョ君のじいちゃんの片方の目にあたってつぶれた。 そしてグリーンフィールド・クラブッチョ君はなぜか分からないけど、グリーンフィールド・クラブッチョ君のじいちゃんが片目になったように思う。 でもそうじゃない。 あのじじいの目をとりだすには鉤のついた竿を使わなくちゃいけない。 目の玉がビンの底より固いから。 グリーンフィールド・クラブッチョ君は屋根の上でひとり踊ってる。 いとこたちはもう下に降ろさせた。 いま松の木のあいだで寝てる。 白いレンガの囲いの内側で。 そこには十字架。 十字架。 十字架。 「どうしてこんなにたくさん、十字架があるの?」とグリーンフィールド・クラブッチョ君は、いとこたちに会いに行った日、ママに訊いた。 「安らかに眠り、天国に行けるように」とグリーンフィールド・クラブッチョ君のかあちゃんは言うと、泣きじゃくり、ずっと離れたところにある十字架にかかってる真新しい花輪を盗んだ。 そのときグリーンフィールド・クラブッチョ君は十字架を七本引き抜き、腕に抱えた。 そしてグリーンフィールド・クラブッチョ君のベッドの下にしまった。 ベッドに横になったとき安心して眠れ、サソリよりひどい針をもってる蚊さえ気にしなくてすむように。 「この十字架があると眠れるんだ」とグリーンフィールド・クラブッチョ君は、おばあちゃんが部屋に入ってきたとき、言った。 グリーンフィールド・クラブッチョ君のばあちゃんはひどく年とってる、ベッドの下にかがんだとき、そう思った。 「この十字架、ふたつあげる」と、十字架をわたしながら、ぼあちゃんに言った。 するとばあちゃんはみんな抱えた。 「きょうはまきが足りなくてね」。 そしてかまどまで来ると、それをこっぱみじんにして火にくべた。 「グリーンフィールド・クラブッチョ君の十字架になにするんだ、ろくでなし!」とグリーンフィールド・クラブッチョ君は言うと、火のついた十字架の木っ端をつかんで持ちあげ、目玉をえぐりだそうとした。 でもこのぼばあとはだれも勝負にならない。 グリーンフィールド・クラブッチョ君が火のついた棒をとると、ぼあちゃんはかまどで煮えたぎってる湯の鍋をつかんで、グリーンフィールド・クラブッチョ君にかぶせかけた。 のかなかったら、いまごろは赤むけになってた。 「なめるんじゃないよ」とばあちゃんは言い、そのあと、焼いたサツマイモをくれた。
2005/12/21
【横浜】トヨタ自動車の渡辺捷昭社長は二十日、横浜市内で記者会見し、子会社のダイハツ工業、日野自動車を含めた二〇〇六年の世界販売について、〇五年実績見込み比九%増の八百八十五万台を目指す計画を発表した。 世界生産台数は〇五年見込みより一〇%増の九百六万台で、初めて九百万台の大台を超える計画だ。世界的な需要増からさらに上振れする可能性は高い。横浜でトヨタ自動車の査定・買取。米ゼネラル・モーターズ(GM)の不振が続いていることから、トヨタは〇六年中にも世界販売台数でGMにほぼ肩を並べるうえ、生産台数でもGMを抜いて世界一となる公算が大きい。 トヨタ自動車の記者会見での主なやり取りは次の通り。 ――グループ世界生産台数は〇六年にも世界一になる可能性が高い。 渡辺捷昭社長「各地域で市場の要望に対応できる生産、販売をすることが重要だ。結果として世界一になるかどうかはあまり意識していない。世のため人のためになる車作りに向けてやるべき課題はまだ多い」 ――米国との通商摩擦への懸念はないか。 渡辺社長「自動車メーカー同士の世界的連携が深まっている。トヨタも現地化を意識し米国で市民権を得るため社会貢献活動をすることが大切だ。かつてのように通商問題が大きな問題になるという認識はない」 ――今後の課題は。 渡辺社長「成長に向けた『戦略的な取り組み』と『足元固め』が二本柱だ。成長戦略としてハイブリッド車のラインアップを一層充実させる。〇六年は四十万台生産を計画しており、一〇年代の早い時期に年百万台生産を目指す。足元固めとして品質向上活動を再徹底するとともにコスト競争力も高めたい」 ――北米や欧州、中国での販売動向は。 浦西徳一副社長「米国販売台数は〇六年は二百四十六万台を計画している。欧州は競争相手が大変多く厳しい市場だが、百万台まであと一歩。一〇年までに百二十万台を販売したい。中国は〇六年は二十八万―二十九万台の販売を目指している」 稲葉良〓副社長「中国事業は安定軌道に入った。四―五年以内にはトヨタにとって米国に次ぐ第二の市場となる」 ――富士重工業との業務提携の進展具合は。 渡辺社長「富士重工の米国工場(SIA)活用、技術交流のテーマについて協議を進めているところだ。年明けの早い段階で決めたい」 ――大量リコール(回収・無償修理)など品質問題への対応は。 渡辺社長「品質向上の意識をさらに高めることが重要だ。品質は工程で作り込むという意識と同時に、基本的には一人一人が品質に対する認識、技術力を付けることが必要だ」 ――経団連が経営側の基本方針として賃上げを前向きに受け入れる考えを示しているが。 木下光男副社長「現地点で労働組合から話はないが、生産性の向上分を超えた賃上げをすべきでないというのが原則だ。ムードではなく冷静に考えると(賃上げは)そう簡単ではない」 【表】トヨタグループの06年生産・販売計画 単位は万台、カッコ内は05年見込み比増加率、% トヨタ自動車 グループ計 生産 国内 411(8) 499(8) 海外 400(12) 407(12) 世界 811(10) 906(10) 輸出 235(15) 252(15) 販 売 国内 178(3) 247(4) 海外 613(11) 638(12) 世界 791(9) 885(9) 06年の生産・販売計画を発表するトヨタ自動車の渡辺社長(中)(20日午後、横浜市西区)
2006/07/29
純益1兆円超えの好決算を連発し、日本中の企業が経営の手本と崇めるトヨタ自動車。その最強軍団で何かが狂い始めた。リコールの急増や現場の疲弊が伝えるのは、トヨタ最大の拠り所である品質の陰り。トヨタ自身、多くを語ろうとしないこの根幹の問題に、総力分析を試みた。あぶり出された姿とは……。 異変1 リコールが過去最悪のペースで急増 異変2 欠陥放置で品質保証部長など3人が書類送検 異変3 米国ではクライスラーを上回るリコール発生 異変4 下請け部品メーカーの従業員に「労災」で訴えられる 異変5 米国の品質ランキングで現代自動車に抜かれる 異変6 レクサスの国内販売は予想外の大苦戦 異変7 既存の労働組合とは別の第2労組が発足へ トヨタがおかしい。世間がそう感じ始めた矢先の出来事だった。 7月11日、衝撃的なニュースが飛び込んできた。欠陥車を放置し、人身事故を起こしたとして、トヨタの元品質保証部長など3人が書類送検されたのだ。事件を担当したのは、4年前に三菱自動車のリコール隠しを摘発した熊本県警。日本中がその経営手法を学ぼうとするトヨタの信じられない不祥事だ。 トヨタは弱り目にたたり目である。米セクハラ訴訟、国内レクサス不振……。ただでさえバッドニュースが重なる。そしてあろうことか、ここに来て大規模リコールが頻発。金看板だったはずの品質までもが世間に広く問題視され始めた。5月の決算発表では、社長の渡辺捷昭自ら「品質はわれわれの命脈。社長として解決すべき重要なテーマ。新年度の方針でも第一に取り上げる」と改善を力説したばかり。そんなさなかに起きた刑事事件は、トヨタの高品質イメージを根底から揺さぶりかねない。 長年、品質はトヨタの存立基盤として機能してきた。「トヨタ車は壊れにくい」。そんな共通認識がユーザーの間にあるからこそ、米GM(ゼネラル・モーターズ)を追い落とすほどの成長も成し遂げることができたはずだ。 特にドル箱市場の北米は経済合理性を重んじる地域。壊れにくいトヨタ車は中古車市場で値崩れせず、下取り価格を高く維持できる。だから、リセールバリューを第一に考える米国人にトヨタ車は人気がある。下取り価格が高ければ新車を売るときの値引きも少なく、利益も増える。まさに高品質による好循環が成立している。 しかも、これはトヨタ車に限ったことではない。高級車のレクサスも「壊れにくい」と考えられているからこそ、メルセデス・ベンツやBMWを従え、米高級車市場の販売トップに君臨することができた。品質がトヨタのレゾンデートルであることは紛れもない事実である。 しかし、好循環が永遠に続くかといえば、そんな保証はどこにもない。品質イメージが少しでも落ちれば、正の循環は負のスパイラルへと一気に転げ落ちていく。近年、品質が向上した米ビッグスリーは過去の悪いイメージが払拭できず、今も販売不振から脱出できない。品質イメージの低下は業績の悪化に直結する。 株式市場もトヨタの品質問題を注視している。事件を受けてゴールドマン・サックス証券が発表したリポートには、リスク要因としてこんな文言が盛り込まれた。 「トヨタの勝ちパターンは高品質に裏付けされた消費者からの絶対的信頼にある。これが崩れると(販売)スケールは多大なコスト負担に変貌する」 00年度前後に問題集中 奥田時代に原因が… 国内大手3社のリコール届け出件数・台数を集計したところ、トヨタだけが一貫してリコール台数を拡大させていることがわかった(左図)。その規模は過去2年、業界断トツの190万台前後。年間販売台数をも上回る史上最悪の状態だ。 国内のリコール対象台数全体における各社の比率を算出してみても、トヨタのシェアだけが大幅にアップしている。日本国内ほど目立たないが、米国でのリコール台数も昨今、大きく増加しており、トヨタの品質問題が他社以上に深刻なことをうかがわせる。 日産自動車、ホンダを含めた国内大手3社のリコール内容を見ていくと、トヨタでは足回り(操舵系を含む)や駆動系の強度不足・耐熱性不足が比較的目立つ。少なくとも国土交通省のウェブサイトで確認できる2001年以降のデータを見るかぎり、リコールとなった不具合が人身事故に発展しているのは3社のうちトヨタだけだ。警察の摘発を受けた「ハイラックスサーフ」のリコール(04年10月)のほかにも、05年5月に届け出た「ランドクルーザープラド」「ハイラックスサーフ」のリコールで人身事故が発生。いずれも足回りの不具合が原因で起きている。 整理した大手3社のリコール内容について、専門家(エンジニア)に意見を求めたところ「足回りの不具合はエンジンが停止してしまう以上に危険性が高い。日産・ホンダと比較してトヨタの安全率が低いのはリコール結果から見て間違いない」との回答が返ってきた。 こうした状況があるだけに、トヨタも問題潰しに必死だ。今年6月には従来1人だった品質担当副社長を2名に増員。品質問題専任の専務も新たに置くなど、事は経営首脳の組織改変にまで及んでいる。 トヨタのリコールが急増したのは、なぜか。それを確かめるべく国交省の公表データを基に検証を試みた。そして、その結果、浮かび上がってきたのは「急成長のひずみ」あるいは「現場の疲労」とでもいうべき構造問題である。 トヨタのリコールは01年度~02年度にかけて急増、05年度には史上最大規模に達した。しかし、リコールは過去に販売した車が対象であり、実際に車が発売されてからリコールが出されるまでにはタイムラグが生じる。つまり、トヨタで今、リコールが急増しているのは「過去」に問題がある。トヨタは目下、生産を急拡大している最中。このまま品質問題に有効な手が打たれなければ、「08~10年にトヨタのリコールは今の規模をも上回り、史上最悪となる可能性が高い」(モルガン・スタンレー証券アナリスト平井紀明)。 問題はどこにさかのぼるのか。その時期を特定するために、リコール対象車の製造開始時期を整理してみると、1995年度と00年度に製造を開始した車種でリコールが突出して多いことがわかった(上図)。 95年といえば現相談役の奥田碩が社長に就任し、トヨタがグローバル展開を加速し始めた時期。そして、99年度~00年度は矢継ぎ早に設立した海外拠点がいよいよ動き出し、世界生産が急拡大を始める直前だ。トヨタは01年に世界シェア10%を突破、03年に米フォード・モーターを抜いて販売規模で世界第2位の座に就くが、まさにこれら快進撃の素地が築かれつつあった時期に問題の種がまかれていたことになる。 奥田時代にトヨタはあらゆる変革を行っている。車種ラインナップは大幅に見直され、同時にプラットホーム(車台)の統廃合が進展。部品の共通化も積極的に展開した。設計のデジタル化が大きく進んだのもこのころだ。これらによって開発期間は劇的に短くなった。 99年に発売された世界戦略車「ヴィッツ」は、ベースとなるスターレットに対し30%の原価低減が目標に掲げられ、コスト削減の実験場となった。ここで蓄えたノウハウを基に00年からは総原価30%削減を狙った大規模なコスト削減活動「CCC21」がグループ総掛かりで始まる。99年には年齢給を廃止し、能力重視の新賃金制度も導入している。 手薄になった開発部隊 製造で信じられないミスも ある自動車エンジニアは、問題の根っこには設計のデジタル化があると話す。「日本の大学では(コンピュータで図面を描く)CADの教育が不十分でトヨタの設計者もCADが十分に使いこなせない。だから、実際にCADで図面を書く作業は外注頼み。設計者と図面を書く人間が別々だから、当の設計者も問題に気づかない。それでも何とかやってこれたのは、経験豊富なベテランがフォローしていたから。しかし、こうした職人たちも徐々に現場から離れ、いよいよボロが出始めた」。 系列部品メーカーの社員からは、こんな証言が飛び出す。「急ピッチのグローバル展開でトヨタさんの現場は慢性的な人不足。しかし、技術者養成には時間がかかるから、人手はどんどん手薄になり、部品メーカーへの丸投げに頼らざるをえない。象徴的なのがハイブリッド。ハイブリッド車の主要部品は、これまでトヨタさんが全部自分でやると言ってきたのに、最近はそのハイブリッド関連の部品まで外注し始めている」。 『製造現場から見たリコールの内側』(日本実業出版社)で自動車開発の実情を描いた自動車部品メーカーのエンジニア・五代領は、「自動車メーカーの人間には部品のことはわからない」と指摘する。「エンジンは自分のところで図面を書いて組み立てているが、その他の部品に関しては自動車メーカーにはほとんど情報がない。本質的に部品の技術は部品メーカーが握っている」。 今年5月、トヨタはステアリング部品の強度不足で56万台を超えるリコールを出したが、これは「(製造を行った)光洋精工(現ジェイテクト)の1個1000円のピンをケチったために起きた」(外資系証券アナリスト)との情報もある。CCC21に始まった大規模なコストダウン、開発現場の負荷増大、デジタルシミュレーションの活用による試作・テストの縮小、そして部品メーカーに対する丸投げの増加――などが品質問題につながった可能性がある。 問題は設計にとどまらない。リコールが急増した00年度~06年5月末を見ると、設計ミスと製造不良が半々(件数ベース)で、製造不良のリコールは業界平均の3割を上回る。中にはシートベルトを固定するナットをつけ忘れたという目を疑うようなポカもあり、問題はかなり広範に広がっている模様だ。 近年、トヨタの増産スピードはすさまじく、03年以降は年間60万~70万台もの増産を続けている。これは、富士重工業クラスの会社を1年に1社生み出すに等しい。製造現場からも「速度を緩めるべきだ」(製造系幹部)との懸念がたびたび表明されているが、トヨタは「停滞は衰退につながる」(渡辺社長)として、スピードを緩めようとはしない。 しかし今年1月、そんな拡張路線に再考を促すような出来事が起きる。2010年に向けた社内経営計画「グローバル・マスタープラン」が議題に上った取締役会。北米や中国など次々に新工場の計画が披露される中、名誉会長の豊田章一郎が口を開いた。「トヨタはいつからこんな会社になったのか。結論を急ぐことはない。(販売動向を見ながら)じっくりと考え、決めたらやる。それがトヨタだ」。章一郎の発言に首脳陣は凍りつき、新工場計画の多くが保留になったとされる。 規模拡大ばかりを急ぐ今のトヨタに章一郎自身、不安を抱いたのだろう。外部から見ていても、現場の疲弊を示す例は枚挙にいとまがない。 現場は疲労困憊 10年ぶりの分岐点? 豊田市トヨタ町。本社敷地内に建てられた開発拠点「トヨタテクニカルセンター」は夜中の0時を過ぎても灯りが落ちることがない。ところどころ電気がついているといったレベルではなく、ビル全体の半分程度は電気がつきっぱなし。こんな光景は、東京の金融街・大手町ですらなかなかお目にかかれない。 04年あたりからはトップ自ら「兵站が延びきっている」とのコメントを頻繁に口にするようになった。系列会社幹部も「残業も、期間従業員のレベルも限界」と異口同音に語る。だが、トヨタ本体の従業員数は増えるどころか、むしろ減っている。1人当たり国内生産台数は98年以降10台以上も増えた。 トヨタの国内生産は、トヨタと系列の車両組み立て会社が半分ずつ担当しているので単純には結論づけられないが、開発や生産の効率化で生産性が上がった反面、現場の負荷が高まったのはおそらく事実だ。本体の従業員が増えない一方、臨時従業員の数はここ3年で2倍以上に拡大。01年と03年にはサービス残業が発覚し、労働基準監督署から2度も是正勧告を受けている。「従業員が体を壊して長期入院・長期療養しているケースは他のメーカーに比べ、圧倒的に多い」(独立系部品メーカーの技術者)との指摘もある。 今年1月には既存労組とは別の第2組合が発足、トヨタ系企業の労働環境改善に向けて活動を開始した。そして5月には、出向先だったトヨタの過密労働が原因でうつ病になったとして、系列部品メーカー・デンソーのエンジニアがトヨタとデンソーを相手に労災訴訟を起こしている。「トヨタグループの多くは高収益・高賃金とメディアで報じられているが、その背景には長時間・過密労働を強いられ、肉体的・精神的に疲れ果てている多くの従業員がいる。私が提訴することで、このような苛酷な労働環境を少しでも改善したい」(法廷での原告意見陳述)。 原告は92~94年と99~00年の2度、トヨタに出向しているが、1回目と2回目とではまるで職場の光景が違ったと言う。「1回目に出向したときは夜の7時が定時といったイメージで(編集部注:トヨタの定時は8時半~17時半)、和気藹々とやっていた。しかし2度目に出向したときは、ほとんど毎日、夜の10時以降まで残って仕事をしていた。みんな余裕がなく、職場の雰囲気もギスギスしていて、上司も部下に強く当たるようになっていた。昼休みも寝不足を取り戻すために寝ている人が多かった」「みんな自分の仕事をこなすので手いっぱいで、部下を指導している余裕なんてまったくない。業務の拡大・技術の高度化があまりにも速すぎて、リソースがとてもついていかない状況だった」。 ある下請け部品メーカーが品質問題を分析した内部資料にも、「急激な増産に現場が対応できずミスが多発している」とハッキリ書かれている。トヨタの急成長路線には今、品質問題という形で黄信号がともされたと見るべきだろう。 「このまま行けば、品質問題はもっと増えるし、訴訟だって出続けると思う」。系列部品メーカーの若手社員はトヨタグループの行く末が心配でならない。「今みたいに人を苛酷に使う仕事のやり方を続けていたら、そのうち誰もついてこなくなっちゃうよ」。 次々に浮上する現場からの異変。 各所に渦巻く急成長への懸念。しかしそれでも、慢心を恐れる経営トップは、進撃の手綱を緩めようとはしない。問題を抱えながらも猛然と突き進むトヨタ。その先には、いったい何が待ち構えているのか。 それは品質神話崩壊のリスクだ。今のトヨタがムリにムリを重ねて急成長を成し遂げていることは疑いようのない事実。販売規模の拡大に連動する形でリコール(品質問題)が今後、史上最悪レベルを更新し続けていったとしても、まったく不思議ではない。そして、万が一、品質問題の拡大が現実のものとなれば、それはトヨタの高品質イメージを毀損し、トヨタの存立基盤そのものを確実におびやかす。95年に始まった怒濤の快進撃を経て、トヨタが今、一つの分岐点に立っていることだけは間違いない。 =敬称略= リコール制度 トヨタでは役員決裁事項“重み”ある法規制 自動車メーカーに義務づけられている無償回収・修理の制度。欠陥車による事故を未然に防ぎ、ユーザーを保護することを目的としている。メーカーの設計や製造が原因で、自動車やオートバイの安全性や公害防止機能が法律(保安基準)に適合しない、あるいは適合しなくなるおそれがある場合に適用される。メーカーが国土交通省に届け出たうえで、該当する自動車を無料で回収し修理することが道路運送車両法によって定められており、違反した場合には罰則を受ける(法人の場合、2億円以下の罰金)。 リコール制度が導入されたのは1969年。欠陥車問題が国会で取り上げられ、国民の大きな関心事となったことが背景にある。米国を起点に盛り上がった消費者運動も導入のきっかけとなった。しかし、長らく通達上の制度にとどまり、法令化されたのは95年と比較的最近。このときメーカーへの勧告・罰則規定も整備された。その後、富士重工業、ダイハツ工業、三菱自動車工業とリコール隠しが次々に発覚。98年と2003年の2度にわたり罰則が強化され、今日に至る。 リコール届け出までの一般的なケースを整理すると、まずユーザーからのクレームが発端となることが多い。クレームはディーラーや自動車整備工場を通じて、メーカーに逐次報告される。この際、同じモデル(型式)で同様の不具合が多発していたり、明らかに重大な問題が起きた場合は、メーカーが即座に調査に乗り出すことになる。問題を放置しておけば、ユーザーの安全がおびやかされるだけでなく、対策コストの増加、ブランドイメージの失墜など問題がどんどん深刻になっていくからだ。 メーカーはディーラーなどへの聞き取り調査のほか、問題となった部品の回収・解析、製造履歴の確認などを進め、どのような条件で問題が起きるのか、問題に再現性はあるのか、また製造工程のどこで問題が起きたのかを確かめ、原因・対策方法を特定していく。そして、設計か製造のどちらかに原因がある場合には、通達で決められた書式に対象車種、不具合の内容、原因、対策などを記入し、国土交通大臣宛にリコールを届け出なければならない。メーカー側は代表取締役の名前で書式を提出するのが通例であり「リコールにはそれだけの重みがある」(国交省)と解されている。ちなみにトヨタでは、リコールの届け出は担当専務の承認を必要とする役員決裁事項だ。 リコールを届け出た後、メーカーは当該車種のオーナーに不具合を通知、ディーラーなどで実際に対策を進める。設計に問題があれば部品を対策品に変更し、製造に問題があれば正しく製造された部品と交換するのが一般的だ。届け出たリコールが確実に実施されるよう、回収・修理の進捗状況は四半期ごとに国交省へ報告することが義務づけられている。 国内全体のリコール届け出は、三菱自動車のリコール隠し発覚の影響で増え続けていると報じられることが多いが、件数・台数ともにピークは04年度。05年度は件数・台数ともに減少し、過去2番目の水準だった。ただ、最近は部品の共通化が増えてきており、大規模リコールが起きやすい状況にある。 国交省の資料によれば、国産車の不具合発生要因は設計が7割、製造が3割(04年度データ)と設計に問題があることが多い。中でも、部品の強度不足など「評価基準の甘さ」が不具合発生要因の半分を占めており、メーカーの品質基準設定に問題がある可能性を示唆している。
2002/08/01
トヨタ自動車の北米地域(米国、カナダ)での生産累計台数が、一九八六年九月に生産着手して以来、一千万台に達した。記念式典出席のため訪米した豊田章一郎名誉会長は、ワシントンで記者会見し「需要に応じ、応分のことをやっていくつもり」と述べ、今後も北米で現地生産を拡大していく考えを明らかにした。 ――米国で現地生産を決めた当時の状況は。 「トヨタは日産自動車やホンダに比べ国際的ではなく、どう対米進出をすればいいか分からなかった。複数のシンクタンクに相談したり、候補地の占いもしてもらった」 「米国人は偉かった。管理職も一般従業員も同じ食堂で食べ、駐車場も分け隔てをしない日本流経営を持ち込んだけれど米国人は受け入れてくれた。この時の自信はその後の現地生産でも大いに生きた」 ――無駄のないトヨタ生産方式は当時の米産業界に衝撃を与えた。 「部品メーカーを巻き込んで徹底した合理化を行い、米国でも安くて良い商品ができることを証明した。品質向上は戦後、米国から日本に持ち込まれた考えだが、現地生産を通して米国へ輸出している」 ――日本車への警戒心が再び強まってきた。 「トヨタの北米における生産、販売の直接雇用は三万人だが、販売ディーラーなどの間接雇用が加われば十七万五千人に達する。トヨタは既に米国企業の一員だし、米国民もそう考えているはず。日米摩擦はワシントンで取り上げられるかもしれないが、カリフォルニアやケンタッキーで話題になることはない」 ――トヨタの北米戦略はどうなるか。 「今後も現地生産を拡大していくつもりだが、これからが大変。今まで伸び盛りだったが、これをどう維持していくか。本当の意味で、これからがトヨタの試金石になる。安全性や環境面でも北米社会に貢献したい。自動車を通じた豊かな社会の実践は日本でも米国でも同じ。責任は重い」 # by toyota_yokohama | 2009-12-29 20:02
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